建築から学ぶこと

2019/02/20

No. 660

その土地と建物を長く活かすために

産業構造や人口構成の変化は、都市の姿かたちを大きく転換させる。日本においては、戦後一度開発された場所がその最前線になっている。顕著な例のひとつは大規模に整備された郊外住宅地で、ここはすでに住民の高齢化が目立つ。求められるのはその地域らしい土地と建物利用であって、居住ニーズとのマッチング・子供たちの居場所づくりなどが挙げられるだろう(「老いた家 衰えぬ街」:野澤千絵、講談社現代新書2018などに分析と提言がある)。従って、空き家対策、所有者不明土地問題にかかわる法整備はこれらの取り組みを支えることになる。
顕著な例のもうひとつは、都心部の土地利用変換で建設が続くタワーマンションである。ここには竣工・入居時点での個別の事業目標到達を、いかに地域全体の成熟に繋げるかという課題がある。タワーマンションにいる住民をうまく地域コミュニティと一体化できるか。付属するロビーや集会室を地域と共有しながら、災害時にも活用できるか。最終的にはマンションの管理組合の努力だけでなく、<行政の適切な指導のもと、タワーマンションを取り巻く社会システムをつくる>ことが重要なのだろう(以上の認識は特集「タワーマンションの進化と生態系」:建築雑誌2019.2に基づく)。またマンションは、修繕・改修、最終的には建て替えの手順を避けることができない。その時点で適切な合意と判断を引き出すには、法律の整備、能力の高いアドバイザーの育成が伴う必要がある。
以上に挙げた二つの例に共通するのは、居住者・所有者による適切な維持管理である。<リフォーム情報を竣工図面と一緒にデータベース化し、第三者が建物の価値を判断しやすくする>制度を定着させれば、建築の質も維持され、結果として不動産市場も活性化するのではないか(「高齢世帯の保有不動産を活かす方策を」:日経新聞社説2019.1.15に提言がある)。民の自由意思に基づく公共空間/社会システムの質を高めるために、さまざまな知恵を使いたいものだ。

佐野吉彦

「一体的」とは景観の問題だけではなく。

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