建築から学ぶこと

2011/04/06

No. 273

日常から耕しておく思考

先週は、震災発生後会うことがなかった知人たち、被害の出た地の友人たちとも、苦労や心配を分かちあう機会が多かった。まだ、あれからひと月が経っていない。思い返せば、私は阪神・淡路大震災のおりには被災地住民として不安な初期を過ごし、断水は1か月間に及んでいた。そのなかで見出したことのひとつが、人と人とのしっかりしたつながり、社会関係資本(Social Capital)が果たすべきおおきな役割だった。この用語はまだ世の中に登場していなかったが、当座まで面識のない、あるいは気付かない同士が連携しあうことの可能性は、そのときに実感した。それは私においても、長く続く活動や人間関係の基盤になっている。社会関係資本は、乗り越えるべきテーマに向き合うためにつながろうとする意識から育つと言えるだろう。私が地域立脚型の活動に関わるようになったのも(「美術館にア−トを贈る会」、「取手アートプロジェクト」など)、振り返れば根っ子がこの時期にあった。ここで重要なのは、活動の中心にある価値とは何かを具体的に掘り下げることである。今回の被災地再生にはそうした価値の共有と、それを支える社会関係資本の有効性を忘れてはならない。

もうひとつ見出したのが「建築は人を元気にする」という確信であった。被災地には復興を諦めた商業店舗の現実もあったわけだが、ひとつの建築が再建できたという結果とそこに至るプロセスには、単なる安全性や機能性を越えた大きな意味があることを感じとった。建築こそが人の心をつなぐ役割を果たした。それらの事実は私の本筋の活動に大きな教訓を与えている。

このような理念の発見は、時とともに拠りどころが薄らぎがちである。皆が思考の畑を日頃からともに耕しておくことは、危機において、それ以上にしばしば訪れる日常的な困難においてもうまく効くのではないだろうか。

佐野吉彦

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