建築から学ぶこと

2006/08/09

No. 45

理解しあうための時間

建築を学ぶ学生と話していると、建築主というものの実体がそれほど意識されていないことに気づく。大学生はまだしも、大学院生になれば建築学のなかのビジネス的側面を身につけることも必要だと思う。研究者であってもビジネスの相手はあるわけだし、まして設計を仕事として選ぼうとする者なら、建築主と向きあい、ビジネスとして建築を実現させる役割をこなさねばならないことを知っておいてもよいだろう。

ここで言おうとしていることは、コミュニケーション技術ではない。設計するにあたって、建築主について良く識るべきだということである。識ったうえで、彼らの求めるものに従うか、あるいは彼らの予想を超える提案をするか、ということになる。

図式的には、建築主と設計者の間で合意形成された内容をかたちに置き換えたものが、建築であると言える。だが現実には、建築主が個人である以外は、建築主とは、かなり複雑な存在である。企業であれば、窓口や判断者は誰で、判断基準はどうなのかについて、きちんと把握する必要もある。再開発組合であれば、合意形成や手続きが法律的にどう決められているかを知るのは最低限で、個別の地権者やデベロッパーがどういう思いで再開発に臨んでいるかを押さえないと事は運ばない。

もっとも、彼らの意思やそれぞれの対立点は、最初から明瞭になっているわけでもないのだ。むしろ建築をつくることに向きあったときから、建築主側は深く悩みはじめる。それでも、かたちをつくるという目標が動かない限り、設計者が能動的な役割を果たすことで、曖昧な状況はどんどんクリアになってゆく。

おそらく、建築をつくりあげる作業を完結させるには、まとまった時間が必要なのだ。それは建築主がものごとを整理するプロセスでもあり、建築主と設計者が理解しあい、信頼を深めあうプロセスなのである。かたちはそのさきにある。

佐野吉彦

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