建築から学ぶこと

2023/11/01

No. 891

イケフェスの10年

10月の最後の週末に、10年目を迎える「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2023」(イケフェス大阪2023)が開催された。この<建築のオープンハウスプロジェクト>が良い年輪を重ねてきたなかに、民間が主体となって運営を進めてきた経緯がある。参加者や建築の所有者の心根に寄り添う視点があるのも素晴らしい。決して単なる建築探訪イベントに留まってはいないのである。ここには近代建築を読み解く学びもあるが、建築の価値の発見と活用トライアル、建築に関わる企業と社会との間に生まれる自然な対話、企画相互乗り入れなどが生まれ、このまちにある人的資源をうまく使いながら建築文化を高め、都市のイメージを形づくっている。これは、大阪が商都の歴史を持ち、そのエネルギーが良好な建築資産の牽引力となってきた歴史を、さらに延伸させようとしていると言えるだろう。
実際に、イケフェスにあるいろいろな建築を自由に訪ね歩くスタイルは、参加者の主体性を引き出している。この感覚は、都心から離れたエリアで開催されることが多いサイトスペシフィックなアートフェスティバルと近い面があるが、建築は見残しても悔いは残りにくい。こうした切羽詰まっていない、包みこむような性格が域外からの集客力を高め、さらに各地で同様の取組みを誘発している。ここ数年は世界の同じ志を持つ取り組みとの連携も深まりつつある。
似たような集客企画では、音楽祭やスポーツイベントなどのように広汎なインパクトをもたらすものがある。興味深いことに、長く続いている企画を見ると、そのまちにある魅力ある場所や建築をうまく使うことで魅力の幅を広げている。城址と、それを取り巻くまち並みをハブとする丹波篠山ABCマラソン(兵庫県篠山市)、歴史的まち並みをサブスポットとするセイジオザワ松本フェスティバル(長野県松本市)などは、別タイプの建築価値発見イベントと定義できるかもしれない。

佐野吉彦

芝川ビル(1927)にも、多くの来訪者が。

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