建築から学ぶこと

2007/10/10

No. 102

社会を変える技術システム

建築技術の展開、建築界の企業戦略を考える上で、今後3次元CADやウェブ技術を積極的に活用しないわけにはゆかない。ただ平行して、これらの技術を正しく活かせる基盤づくりに努める必要があるだろう。そうした基盤がうまく整ったとき、建築が社会システムを大きく変える。では、誰がそれに取り組むのか?

歴史から学んでみよう。たとえば、19世紀は産業革命の成果が都市構造を変えた世紀であった。ガスを照明に使う試みはすでにあったのだが、イギリスのウィリアム・マードックがガス灯の「システム」を追求したところから、状況は変わった。彼はガスの製造からガスタンク、ガス管とガス灯とコックに至る流れ全体を考案したのだ。その結果、ガス灯は急速に普及し、都市の夜間は安定的に明るいものとなった。その華やぎを活写しているのがファン・ゴッホの1888年の「夜のカフェテラス」である。ガス灯の明るさは、結果としてナイトライフという新しいカテゴリーを生み出す基盤を用意した。さらに、職業の選択肢や知的生産が拡大することにつながった。

同じように、産業革命は蒸気機関を作り出し、19世紀に入って蒸気機関車を生み、それが鉄道というシステムに枝葉を広げた。この飛躍は凄い。フランスでは1832年に商用鉄道が開業し、広域の通商を活発化させる。パリのサン=ラザール駅は北方向へのターミナルとして、瞬く間に活気ある場所に育った。クロード・モネはこの駅に通いつめ、何枚もの作品を残している。この名作からは、すでに鉄道システムが安定した様子が伝わってくる。そして定時運行を目指す鉄道が誕生したことから、時間を管理するという視点が生まれた。時間という概念が都市に根を下ろしたのである。

すなわち、ひとつの技術が予想以上の展開をしたときには、社会システムについての適切な考察が伴っていた。そうして、都市構造が変わったのだ。いつの時代も人の眼が新しい方向・方法論を探り出し、都市の人々の眼差がそれを評価してきたことを考えると、つまるところ、いかにすぐれた洞察力と自発的努力を持った個人の役割が重要であるかがわかるだろう。

佐野吉彦

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