建築から学ぶこと

2009/11/11

No. 204

自立するかたち、あるいは精神と

アクシスギャラリーで開かれていた「三保谷硝子店101年目の試作展」は、創意と情念が溢れだす展覧会だった。3代目三保谷友彦さんが、倉俣史朗さんをはじめとする16名のクリエーターとともに、創った作品群を静かに置き並べた空間である。クリエーターが主役なのだが、三保谷さんは脇役というわけでもない。三保谷さんが究めつくしたガラスの本質が、クリエーターの身体を通して具現化されたと言うこともできるだろうか。多様な表現手法が併在しながら、静謐な空気を湛えているのは、とても不思議かつ素敵であった。協働してプロダクトが実現したというより、これは協働行為そのものが自立していて、人を寄せ付けない迫力を獲得している、と表現すべきか。当の三保谷さんは、それでいていつも肩に力は入っていないのだけれども。

NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)では、ウィーンを基盤とするコープ・ヒンメルブラウが、建築作品ではなく、「回帰する未来」という名のもとにインスタレーションを提示している。ひとつは1969年のアイディア「Astro Balloon 1969 Revisited-Feedback Space」、もうひとつは2008年発表の「Brain City Lab」で、いずれも観客の動作を感知して形成される都市空間を扱っている。心拍が光に置換される前者と、身体移動が都市空間を生成する後者。じつはこの場はとても快適な空間体験であるが、人の身体を都市はどう写し取るのかという、根源的な問題を扱っている。この展示は、彼らの建築思想を解説するための取り組みではなく、精神そのものがかたちを直接刻むという、彼らの視点を示すものである。

三保谷さんとコープ・ヒンメルブラウの間を結ぶ補助線は特にない。ただ、テクストが伴わなくとも、意思が明瞭に伝わる展覧会、時空から自立した試みに出会うのは、とても幸福な経験である。

佐野吉彦

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