建築から学ぶこと

2008/03/12

No. 123

PFIへの視角

建築と社会」誌2008年2月号に<PFI事業、その後>という特集記事が載っている。これは野城智也・東大教授の問題提起に続いて、異なる立場にあるPFI関係者が語っているものだ。発言しているのは設計者・事業者(SPC)・発注者で、ほぼ全方位揃っている。あとはアドバイザリー業務関係者・審査員らということになろうか。

日本におけるPFIビジネスは、PFI法が施行された1999年から始まる。10年の歴史はこれまで多くの実績を生み出し、この制度の扱い方や課題もおおよそ明らかになってきた。特集記事によれば、どのプレーヤーも、異なる専門能力を総合して事業目的の達成が図れること、特に運営管理面を初期からプログラミングできることの優位性は認めているようだ。そうした手ごたえがある一方で、発注前の要求水準書が十分練られたものであるかという点、十分ではないのに発注後の変更の余地が少ないという点が課題として報告されている。

さてこのところ、PPP(公民連携)ということばが話題に上ってきている。野城氏は、方法が狭く定義づけられたPFIよりも「より広義のPPPを念頭に置きつつ、競争的対話により、発注者とキャッチボールを繰り返しながら、要求条件と設計内容を並行的に確定してゆくようなプロセスが含まれる事業方式が、個別的で複雑な計画内容を持つ建物に適している」と記している。氏は「設計後PFI」についても試みられるべきとしており、能力のある設計事務所ならば、こうした可能性は腕の見せどころとなるであろう。

実はまだ、PFIの歴史は10年。官から民への流れは始まったばかりであり、現段階で判定を下すのは早計かもしれない。それゆえに、有権者や議会が冷静にモニタリングをおこなうことも重要である。カネは有効に流れ、目指す成果は得られているかどうか。そこから改良が進むことはあるだろう。目指す建築の品質について社会の中に常識の基盤が整ってくることもあわせて必要だ。いまはまだ長い革命が始まったばかり、と考えたい。

佐野吉彦

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