2017/07/26
No. 583
インターディシプリナリー(inter-disciplinary)という言葉がある。さまざまな領域の学者や専門家が協力しあうことを指しており、シンプルに学際的、と訳すこともできる。この言葉をめぐって、前回紹介した「舞台を回す、舞台がまわる 山崎正和オーラルヒストリー」に言及がある。<Inter-disciplinaryはdisciplineのinterである。訓練および長年の精進を意味するDisciplineがあってこそ、interがあり得るわけなのに、当時inter-disciplinaryを叫んだ人たちは、disciplineの点で弱かった。その虚妄さも薄々気づかれていて、inter-disciplinaryという言葉自体がすでに廃れつつあった>というくだりである(*1)。それは1970年代後半を指しているようである。
山崎さんは、その動きを横目で見つつ、インターディシプリナリーを正しいかたちで復権させることに取り組んだ。<ものごとを総合的に考えようという意欲が衰えたらおしまいだ>(*1)という視点とともに、各分野にしっかりとした根を張るべきという視点を忘れるべきでない、としたわけである。その時期、山崎さんはサントリー文化財団設立(1979)にかかわっており、その趣旨に添って今も続くサントリー学芸賞がスタートを切ることになった。
ところで、山崎さんの2歳下の建築家・宮脇檀さん(1936-98)のドローイングとその軌跡と向きあってみると、いまもその手ごたえは鮮やかである(*2)、美しい手書きを通じて、生涯にわたる設計期間の前半にある、密度高く、粒の揃った住宅作品と、後半のイマジネーション豊かな住宅地計画とにある、底堅く継続的な知的探求を読みとることができる。宮脇さんがこなしていたInterな活動も実務の中にきれいにフィードバックし、結晶した。ひとりの建築家が社会とつながり、後進に影響力を残した活動の根には、知性と設計力、すなわち建築家のDisciplineがつねに鍛えられ続けていた。学ぶべき歩みである。
*1 同著p.214-215から整理して引用
*2 展覧会「宮脇檀 手が考える」建築家会館/主催・建築文化継承機構