2013/12/04
No. 403
20世紀の終盤に至って、PCがワークスタイルを変えはじめた。1980年頃、まずはホストコンピュータとは接続しないワープロあたりから。世紀が変わるころ、小宇宙として成熟を続けていたPCは、それらを相互につなぐネットの進化によって、機敏な端末として世界を拡げる前線基地となった。こうして、個々の作業と情報共有方法が変わるからには、建築の発想から生産に至るプロセスに変化が起こるのはいうまでもない。昨今のBIMの普及と定着は、ここまでの流れ、すなわち作図手法改革を主要な関心事に据えてきた流れの集大成といってもいいだろう。
この動きの先を切り拓くのは、ファブラボにある可能性ではないか。田中浩也氏(慶応義塾大学環境情報学部准教授)の講演を聞きながらそう思った。ファブラボは三次元加工製作を容易にする拠点(工房)であるが、この拠点が質量とも充実し、市民の日常で利用しやすいものになれば初期PC定着の状況に似てくる。さらに、これらファブラボがネットワークされることで、モノづくりである建築生産は大きく変わる。ファブラボ普及が展望する近未来は、現在のPCのようにパーソナルファブリケーターが端末となる世界で、そこでひとりひとりが必要とするモノを自らの手で具現化することができる。
重要なポイントは、「端末が有する創造性」が主役となりネットワークを動かすことである。端末が生みだす優れたモノは、ネットを媒介手段として、複製ではなくさらなるローカルなアレンジを誘い出してゆく。田中氏は、今あるインフラ先行の国家/地域づくりは、その場その時期に必要なモノをまず製作・製造し、それが地域に波及するという順序に変わるだろう、と例を挙げつつ語る。これはパーソナルから始まりソーシャルへ眼を向けながら、社会原理を問い直しにゆく動きだと言える。様々なツールを活用しながら建築生産プロセスは変化を遂げてきたが、ここに至って望ましい社会を形成するプロセスへの関心が高まっている。
講演は、11月27日、千葉工業大学工学部建築都市環境学科にて。