2017/02/01
No. 558
それは、穏やかな空気に満たされた作品展。建築家が自らの手法を語りつくすというよりも、一緒に建築が語ることばを聴きましょう、という趣向と言えるだろうか。なるほど、それぞれの建築に物語がひそんでいることが分かる。それは時に喜びにあふれ、時に人生の哀しみを宿しているのだ。堀部安嗣さんは建築をつくる過程のなかで、忘れがちな、いや忘れてはいけないものやできごとを拾いあげ、結びあわせようとしている。「建築の居場所」(ギャラリー間、3月19日まで)展とはそのような場所であった。
会場では「堀部安嗣 建築の鼓動」と題した短編ドキュメンタリーが上映されており、これがなかなかの出来栄えである。建築が立ちあがり、風景が整ってゆく姿を、建築主や施工者の語りを交えながら描き出している。このなかで個性的な作品「阿佐ヶ谷の書庫」の建築主・松原隆一郎さんが登場するくだりが印象深かったので、このプロジェクトをめぐる本「書庫を建てる」(堀部安嗣+松原隆一郎著、新潮社2014)を買い求め、彼らの間にあった物語を掘り下げてみることにした。
コトの滑り出しは、松原さん自身が引き受けた重たい使命である。堀部建築はかたちによってその重さからの<救済>を図る任務に取り掛かることになる。松原さんから見て、建築家とは単に技術に長けた者ではなく、予想しなかった視点から<解>にたどりつける能力者であることに気づく。すなわち、松原さんが記すように<建築は異なる時間を媒介し、それらを「繋ぐ」>職能だったわけである。工事が始まって、かたちが順を追って整うとともに、彼の桎梏がひとつひとつていねいに取り払われてゆく。建築は人をいたわるだけでなく、すでにこの世にいない人をもいたわっているようだ。そのありようは堀部さんによる「竹林寺納骨堂」も同様である。