建築から学ぶこと

2023/06/28

No. 874

6月23日の奥行き

その日とは歴史上どういう日だったのか、スピーチの用向きがあったので調べて驚いた。ひとつは78年前に沖縄での組織的戦闘が終結した日である。復帰前の沖縄ではこれを記念して「慰霊の日」と定め、戦争の悲劇を顧みて平和を願う重要な節目とし、現在にまで趣旨が引き継がれている。この日は、沖縄の被害に留まらず、戦争による民間人犠牲の問題を含めた、世界に重要なメッセージを発信する日と言える。
もうひとつは、クーベルタンの提唱によって1894年のこの日に国際オリンピック委員会が創設された日。今は「オリンピックデ―」と呼ばれている。世界の友好と平和を象徴する日だが、オリンピック大会は世界大戦による5度の中止(夏3、冬2)があり、1972年のミュンヘンオリンピックではテロ事件もあった。平和なビジョンの実現には幾度も困難を乗り越えてきたのである。この出来事も、当該の日に留まらない重さを有していると言えるだろう。
さらに、6月23日はコンピュータサイエンスの先駆者であるアラン・チューリングの誕生日である。1912年に英国で生まれ、第2次大戦下では暗号解読に従事した経歴がある。生涯にわたる研究を通じて、人口知能の道を切り開く成果を生み出しているところから、その先見性に注目が集まっている。チューリングが重視したのは、果たして機械が思考できるかということより、機械は人間の知性と同じように振る舞えるか、という点であった。それは人工知能があるべき姿を描き出す一方、人の知性の高さ深さに期待しているとも読める。今日の予言のようでもあるが、チューリングは進みつつある現実を説き明しているのである。決して甘美な未来社会を描いてはいない。それにしても、6月23日の持つ奥行きには感嘆するのみである。

佐野吉彦

アラン・チューリング(1912-1954)
(photo:Wikimedia Commons

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