建築から学ぶこと

2013/01/16

No. 358

民の力が可能性を生む

1月17日で18年を経過する阪神淡路大震災については、この連載でも幾度も言及してきた。私が被災地にあって考えていたのは、ひとつひとつ建築を再建することが、どれほど人を活気づけるかについてであった。それを契機としてまちの復活が始まる。当時カトリック鷹取(現・たかとり)教会(神戸市長田区)で主任を務めていた神田裕神父は、坂茂氏による<紙の教会>を近隣支援や宗教間対話のための場としても有効に用いたという。ハードとしての建築には多くの可能性があるのだ。

いまの神戸は当時の傷跡がほとんど見えなくなっている。かつてほどの経済の勢いはないけれど、復興の途上での互助や新たな試みが民力を育てたと思う。それは少なくとも10年にわたって国家もメディアも被災地を忘れずバックアップしたことが大きい。この震災をめぐる経過は、再生には民の自発的な意思が重要であることを広い範囲に認識させた。震災当時はネット環境も十分ではなかったが、その後各地で起こった災害と復興プロセスではネットが多くの知恵と情報を結びつけることになった。2011年の震災から東北が再生することは国家的テーマに他ならないが、時を経て成長成熟してきた民力をうまく誘い出すものであるなら、公共工事の集約的実施は期待していい。

新政権が打ち出した緊急経済対策は、2%の実質経済成長率をいかに確保するかの観点から描かれている。だがそれは当面の措置である。国内には、次の展開を練る右肩上がりの企業や地域がある一方で、現状からの転換に取り組む老舗がある。そのような多様性を含む民需や民力が社会を動かしてゆくのが順当である。様々な場所で活動する建築の専門家がなすべきことは、目の前にいる不屈の精神を持つ者のために、プロとしての知見/技術を具体的に提供することではないか。

佐野吉彦

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