建築から学ぶこと

2016/10/19

No. 544

丘の上の街と、それをつくった人格

丘の上の街は隠れることができない。そのようにわれわれは手本になる社会をつくろうではないか、と言ったのはまだ植民地であったアメリカの政治家ジョン・ウィンスロップ(1587-1649)である。聖書に由来する言葉であるが、流山市にある「流山市立おおたかの森小・中学校」を初めて見たとき、そのようなイメージを想起した。つくばエクスプレスの開通によって、東武鉄道と交差する新駅は人が集まる要衝となり、街ができた。でも、このエリアを上手に牽引するのは、駅近くの丘の上にあって、列車が減速するあたりでその姿をあらわす、新しい学校なのである。この街の子供たちは、不思議な連続をする教育空間の中で知恵と知識を身体に染み渡らせ、変わりゆく街の風景とともに育ってゆく。教育空間でもオフィスでも<見る/見られる関係>は重要だと言われるが、おおたかの森小・中学校は<手近に見える+遥かに見晴るかす関係>がうまく組み合わさっているような印象がある。
今年、夏が近づくころにある建築賞の現地審査でこの学校を訪れた。設計者はCAtで、その日は赤松佳珠子さんにていねいにご案内をいただいた。もうひとりの組織代表・小嶋一浩さんは不在だったが、何日か後にある会議でご一緒する機会を得た。その場で都市景観をめぐって発言した小嶋さんの言葉は穏やかながら重みのあるものだったが、それがお目にかかる最後となる。10月13日、小嶋さんは私の年齢より若くこの世に別れを告げた。
私が小嶋さんを素晴らしいと感じたのは、2010年2月の京都工芸繊維大学大学院の修了設計公開講評会においてであった(その時期、私は大学院客員教授を務めていた)。小嶋さんはアマンダ・レヴェットさんらとゲスト・ジュリーを務め、学生の説明に対し鋭い切り口でコメントしながらも、学生ひとりひとりにあたたかさを以って接していて、とても印象深いものだった。それはにじみ出るあたたかい人柄ゆえであり、人にモチベーションを与える小嶋さんなりの方法であったろう。そのような小嶋さんが、建築という衣装をまとったかのような丘の上の街は、いつみてもぬくもりのある忘れがたい表情をしている。

佐野吉彦

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