建築から学ぶこと

2018/03/28

No. 616

本と出会い、人と出会う。

良い本と出会うことは、良い友人と出会うことと似ている。すぐに気心が知れる間柄になる友人もあれば、時間をかけて育む友情もあるように、本との出会いもなかなか奥が深い。私は欲しい本をネットで注文することがないわけではないけれど、袖擦りあう縁のほうをずっと大事にしている。実際に、書店に行くと、本が自分を呼んでいると感じるときはないだろうか。良く出向く書店というのはあるけれど、たまたま旅先で立ち寄る書店で違う声が聞こえてくるのも楽しい。今年の収穫では池内紀「記憶の海辺 – 一つの同時代史 -」松村圭一郎「うしろめたさの人類学」などがそういう出会いだった。齋藤桂「1933年を聴く」は、おやガスビル竣工と同じ年の話だな、と思ったのがきっかけとなった。これらは新聞の書評に載るものもあるが、書店で感じる肌ざわりをやはり第一に考えたい。
このなかには、いわゆる「ジャケ買い」というのも含まれる。装丁に備わる意欲と、本そのものの中身とは深い関係があるのは確かだ。そのようにして、かつて宇佐美圭司による武満徹の本「音、沈黙と測りあえるほどに」と出会い、結果として武満徹のたくさんの本も音楽も長い縁が続くことになった。近刊の谷川俊太郎+尾崎真理子「詩人なんて呼ばれて」も、装丁に香りや工夫があるもので、手にした途端に惹きこまれた。そう言えば、SD選書のあの黒い装丁は、学生時代の私を多くの建築理論にいざなってくれたものだ(図書室での借り出しを含む)。
人を信じることから本との出会いが始まることもある。私には読書友達というべき友人が幾人かいて、本をお互い紹介しあうことがある。ある友人は米原万里「嘘つきアーニャの真赤な真実」を紹介してくれたので、返礼に星野博美「みんな彗星を見ていた – 私的キリシタン探訪記 – 」を紹介した。別の友人のお奨めの中では、原田マハ「楽園のカンヴァス」が面白かったが、あまり私が読まないタイプの大鹿靖明「東芝の悲劇」も、意外にこの本に東芝という企業への敬意が潜んでいて興味深かった。鈴木一人「宇宙開発と国際政治」という本は、この本が得た第34回サントリー学芸賞の授賞式での著者の挨拶に興味を感じて読んだ。つまり、人は本を呼び寄せ、本は人をつなぐ、ということだろうか。

佐野吉彦

武満徹+宇佐美圭司の偉業。

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