2024/10/09
No. 937
19世紀から20世紀に切り替わると、時代の歯車が大きく動き出した。それまでの文化の蓄積の上に、新たな文化・技術が花開き、そして加速した。20世紀の初頭、建築では、オットー・ワーグナーがウィーン郵便貯金局(1906)を、ペーター・ベーレンスはベルリンでAEGタービン工場(1909)を、ルイス・サリヴァンはシカゴでカーソン・ピリー・スット百貨店(1906)を完成させた。これら建築におけるモダニズムは都市にエネルギーと疾走感をもたらした。
同じころ、美術ではピカソやブラックがキュビスムを牽引した。音楽では、アルノルト・シェーンベルクが12音技法で新たな出発を始め、クロード・ドビュッシーとイゴール・ストラヴィンスキーは、様々な音楽スタイルを取り込みながら、音楽の可能性を拡大している。この日のコンサートの冒頭では、ドビュッシーと同時代で交友があったポール・デュカスのバレエ「ラ・ペリ」より“ファンファーレ”(1912)が演奏される。メインのジャン・シベリウス作曲の交響曲第2番(1902)は、当時ロシア帝国の圧政に苦しむ民族意識を目覚めさせたと言われるが、作曲者にそうした意図はなかったようである。しかしその後1914-18年に第一次大戦が勃発し、ロシアでは革命が起こり、ソ連が誕生し、フィンランドは独立した。一方のアメリカは「狂乱の20年代」と言われる好景気を迎える。
1929年の大恐慌までのこの時期はジャズが一気に普及しており、人気作曲家ジョージ・ガーシュウィンは1924年に、クラシックとジャズを融合させた「ラプソディー・イン・ブルー」を世に送り出した。これがこの日の2曲目で、まさに安井建築設計事務所創業の年である。日本では1923年に関東大震災があり、1937年には日中戦争が始まる時期。目まぐるしい20世紀のなかではあたたかな日差しが降り注いだ時期と言えるだろう。芦屋にあるフランク・ロイド・ライトの山邑邸も1924年、その後1931年にル・コルビジェがパリ郊外にサヴォア邸を誕生させ、建築の進化もますます加速してゆく。
(引用:佐野による「安井建築設計事務所創業100周年記念コンサート」のプログラムノートから)
10月1日、サントリーホール