建築から学ぶこと

2025/01/29

No. 952

公共空間、そしてそれを活かすこと

4年続いたバイデン政権が掲げた旗を一斉に降ろしにかかっているのが、新しい米国大統領である。そこから発せられる言葉には、わかりやすいけれどもとても古めかしいアメリカの価値観が宿っている。政治哲学者マイケル・サンデルはそれに対して批判の眼を向けるというより、そういう異形のリーダーを選ぶ流れを作ってしまった民主党に警鐘を鳴らしている(日経1月18日*1、朝日1月24日*2、トマ・ピケティとの対談*3)。課題は「取り残された人々」に対する「社会的名誉や尊敬、承認、尊厳の欠如」なのだが、幾代かの民主党政権はそこに十分切り込めず、むしろ新自由主義的路線に舵を切ってしまっていたと見ている。また、バイデンには、かつてルーズヴェルトが提唱した「ニューディール」のような人を動かす言葉を欠いていた(*2)。
さて、サンデルは「自治体のプール、公園、公立学校、文化施設、図書館といった公共施設の価値は、そのサービスだけに留まらない。民主主義が求めるのは完全な平等ではなく、異なる背景を持つ人々が混ざりあうこと。公共空間は、私たちが連帯感を築き、市民社会で互いに責任を負う存在であることを思い起こさせる。その価値を再認識すべきだろう」(*1)と述べている。私たち建築設計に関わる者はこの言葉に素直に反応できる。
サンデルは、共同体の可能性を信じている。政策として個人の権利尊重だけを追求するのではなく、コミュニティに属するひとりひとりが、相互の尊厳を尊重して「共通善」(Common good)を形成し、善き共同体の形成を目指すべきと考えているのではないか。私は、それが各々の自発性に基づいて生み出されるための道具として適切に場をデザインすべき、と理解した。そこで出会うだけではなく、世代を越えて交流が生まれ、絶えずいきいきとした対話が生まれることで、共同体と公共空間がさらに確かなものになる。

 

*3 サンデル+ピケティ「平等についていま話したいこと」(早川書房2025)

佐野吉彦

この樹のように、人をあたたかく包む場所こそ

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