2024/10/16
No. 938
2024年のノーベル賞は快い驚きが連続した。平和賞を授与される日本被団協は核兵器廃絶に向けて地道な活動を続けてきた団体で、授賞理由の記述によれば、アルフレド・ノーベルの信念である「献身的な人々が変化をもたらすことができる」点か評価されている。ここには、現在の世界が直面する危機が背景にあり、2つの人権団体が受賞している2020年の流れを受け継いでいるとも言えるだろう。経済学賞のアセモグル氏・ジョンソン氏・ロビンソン氏らが、社会制度が経済に及ぼす影響を追究した功績は、前年の同賞のゴールディン氏が男女格差を扱っていたのと同じように、社会課題に向きあっている。
その他の賞では、AIに関係する功績が話題をさらった。物理学賞のホップフィールド氏とヒントン氏は、まさにAIの基礎となる人工ニューラルネットワークを追究した人々で、前者の研究を後者が深層学習にまでバトンをリレーした。AI開発の草創期を知る両者への授与は、今後のAI進撃に向けて適切な道標になるだろうか。化学賞はベイカー氏とハサビス氏とジャンパー氏で、ベイカー氏は2003年にコンピュータを使って新たなたんぱく質の設計に取組み、あとの2氏はそれとはやや活動が異なり、AIを活用して蛋白質の構造を精度高く予測した。もちろん私はそのような研究に馴染んでいるわけではないが、オンラインでの授賞発表を見て、立体構造を表す画面の美しさに魅了された。何だか行く手が気になる取組みである。
生理学・医学賞のアンブロス氏とラブカン氏のマイクロRNA正統的な研究で、これは高校時代の知識で大筋は理解できる。文学賞のハン・ガン(韓江)氏が光州事件に近い距離で創作を始めていたことは初めて知った。韓国には日本で名が通った作家も多く、また抵抗詩人の豊かな山脈がある。韓国初の文学賞とは意外で、これから同国の逸材がさらに掘り起こされるのではないか。