2025/05/21
No. 967
先ごろ、文化審議会は、2025年の国宝として1件、重要文化財(建造物)として8件を大臣に答申した。まず、琵琶湖疎水のうち、3つの隧道とインクライン、南禅寺水路閣(空中水路)が国宝指定、ほかに大津から京都に伸びる疎水全体と関連施設が重要文化財とされた。この疎水無くして、明治以降の京都の近代化、産業発展は語れない。その中でも国宝に位置付けられた構築物は技術面での挑戦のレベルが高く、しかも美しい。もっとも最初に南禅寺境内を横切る姿を見て、臨済宗にかかわる人々は嘆いたかもしれない。しかし、今や境内の建築群と見事に調和している。
他の重要文化財の中では、菊竹清訓設計の自邸「スカイハウス」(1958)は、作品の引き締まった美しさだけでなく、その明瞭さは高い影響力を有している。メレル・ヴォ―リズ設計の「旧下村正太郎邸」(1932)は、大丸心斎橋店の少し後、同じヴォーリズによって設計されたオーナーの自宅である。密度高い住宅作品であり、京都御所近くにあって、こちらも静かな影響力を保ち続けている。
また、今回は1970年万博時に完成した「太陽の塔」の重要文化財指定が話題となった。岡本太郎の作品として知られているが、正確には建築作品として、設計者との共同制作である(吉川健、川股重也ほかのチーム)。その意味では、領域を越えた取り組みが高い成果を導き、その成果が時間とともに評価を受けるのは、良い前例となる。万博のレガシーであるのは間違いないが、この取り組みの質があってこその指定である。
いずれの施設もきわめて丁寧に活用され、維持管理や修復がなされてきた。その努力をこそ称えたい。それがあってこそ、人々はこの構築物・建築物に自然な敬意を抱くのである。その歳月を見極めた選定者にも感謝したい。
インクラインの下を潜るトンネル