2025/04/02
No. 961
私がユヴァル・ノア・ハラリの著作に触れたのは「サピエンス全史」だった。その中で「歴史を研究するのは、未来を知るためではなく、視野を拡げ、現在の私たちの状況は自然なものでも必然的なものでもなく、したがって私たちの前には、想像しているよりもずっと多くの可能性があることを理解するためなのだ」というくだりがある。人類の歴史の過程で、認知革命から農業革命、さらに科学革命は、必然的に起こったのではなく、人類が自ら創り出したものであって、決定論に基づくものではない。ハラリは丁寧な観察を加えながら、未来に向かう私たちに示唆を与えている。
同著の2011年の刊行(翻訳は2016年)を経て2024年(同、2025年,河出書房新社)に世に出たのが「情報の人類史」である。原題は「NEXUS」で、情報ネットワークをめぐる壮大な考察がなされている。この10年あまりの中で起こったことを想起すれば、新型コロナウイルスの流行があり、大国の覇権主義が勢いを増して、2度にわたってトランプ政権が誕生した。そして戦争の行く手が読めず、AIとSNSが不気味な連動を始めている。それらを見つめるハラリはややペシミスティックに見える。本著では、情報ネットワークが世界に、眼には見えない<共同主観的現実>を展開させ、良くも悪くも私たちの現在を形成する役割を果たしたことに触れる。しかし、ネットワークがさらに創り出している、見逃せない<現実>に、私たちはもっと意識を研ぎ澄ませて向きあわねばならないのではないか。ハラリは危機を感じながらも、人類にある<自己修正メカニズム>が何とか歴史の破綻を防いできたことを振り返って、未来への望みを託している。「歴史で唯一普遍なのは変化することなのだ」と述べつつ。
企業や組織の新しい年度が始まる4月だからこそ、それぞれが社会の将来について深く思いを馳せて走り始めるべきではないか。明るい春とは、種を蒔く春なのだから。
今年は、乙女椿が花ざかり