建築から学ぶこと

2024/09/18

No. 934

高みに吹く新しい風―高野山にて

日本は山岳信仰の歴史が古い土地である。さらに伝来仏教と結びつくことによって修験道という形を生み出すことになる。知名度は高くても祠しかない山頂もあるなかで、出羽三山・高野山・吉野山などは質の高い建築を擁する重要な結節点である。下界の民はそれらを目標と定めて高みを崇め目指す一方で、山に宿る神秘な知恵・勢力はここから下界に影響を及ぼす双方向のダイナミズムが生じている。決して静まり返った修行の地ではないところは、キリスト教文化圏にある山岳拠点とは様相が異なるかもしれない。

このところ、高野山をカバーする高野町(和歌山県伊都郡)と業務の縁があり、私も訪ねる機会に恵まれてきた。この地はインバウンドにも人気の一大観光地なので、時期によってはオーバーツーリズムが顕著である。一方で、修行の拠点であることは変わらず、高野山大学も置かれる。まさに聖俗が同居している地だが、さすがに人口は長期的に減り続け、今は2695人(本年8月現在)で、9324人を数えた1960年から比べると大幅減である。所帯数の減少率はそれより緩いので、明らかに少子化の傾向が表れている。

さて、この地での任務は「高野山学びの杜」(高野町学びの交流拠点)の設計監理である。小中学校・こども園・中央公民館・子育て支援センター・学校給食センターが入居する、全世代が活用・交流できる複合施設である。産業振興にもつながる木造の様々な構法の切り替え、誰もが使うことになる大階段設置はごく自然な解であり、子育て支援サービスを高め、地域への帰属意識を高めるランドマークとなるだろう。

この施設は、子育てしやすい高野町の未来を呼び込む力となる。文化遺産のきりりとした建築群(*)が、長年にわたって善き宗教家を育ててきたように。

2004年に世界遺産(文化遺産)に「紀伊山地の霊場と参詣道」として登録

佐野吉彦

出迎える顔に光が注ぐ

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