建築から学ぶこと

2024/07/03

No. 924

デジタルは、専門家のミッションを問い直すきっかけになる

ワシントンDCでのAIA(米国建築家協会)大会の話は第921回で触れたが、私がこの壮大な大会に初めて参加してから25年は過ぎている。その間にはデザインビルドやBIMが話題として沸騰した時期もあった。それらは時間をおいて日本に大きな波となって押し寄せるのが興味深い。一方で、大会で交わされる議論では、そのように制度や技法が動きだす渦中で、建築家にとって変わらぬミッションとは何かが問われてきた。そこはこの大会の根幹にある。

そう観察しつつ、昨年刊行された「Architecture in Digital Process(*)を手に入れ読んでみた。この本はデジタルやネットワークの進化によって建築がどう変化してきたかが主眼ではなく、フライ・オットーや日本のメタボリストといった人たちが、建築を生成するプロセスについて、どのように先見の明を持って提案・提言をしてきたかに重点を置いている。彼らは建築に閉じこもって思考を掘り下げたのではない。哲学のジル・ドゥルーズや、音楽におけるジョン・ケージの視点と響きあいながら、自己中心的なシステム構築でなく、よりネットワーク的なありようを探ってきたのである。

もちろん先見性は、現代の社会課題や環境をめぐる課題に切り込む際にこそさらに重要である。そこにデジタルを援用しながら、建築家は、同時に自らのミッションを問い直し続けることになる。おそらく他の分野の専門家も、近代の変化に対峙して同じようなアプローチを採るだろう。

さて、今年のAIA大会では、予想通りAIの活かしかたが話題となっていた。AIは喫緊の課題解決に早くたどり着くためには都合が良いが、共同作業を充実させるにはさらに有効である。建築家は、共同作業も、デジタルとの共生も長い経験があるだけに、AIと付きあいながら社会における建築家像、実務のありかた、教育システムの未来を的確に描くことができるのではないか。

 

*Architecture in Digital Process -Machines, Networks, and Computation
Socrates Yiannoudes; Routledge 2023

 

佐野吉彦

デジタルとともに切り拓くもの

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