2024/09/11
No. 933
ディスティネーションとしての長崎は味わい深い。港湾と夜景、キリスト教布教、殉教と明治以降の復活の物語、出島を通じた世界との縁、新地中華街界隈のデザイン混淆、造船などの重工業化や軍艦島、原爆投下の記憶など、時代のテーマと長崎は結び合ってきた。これだけ切り口が豊富な土地は珍しいのではないだろうか。祭りはにぎわい、路面電車のリズムも心地よい。周辺にある温泉地・雲仙、離島も魅力がある。もっともその広がりのわりには長崎市への訪問客はそれほどダイナミックに伸びていない(*)。少なからず過去の遺産に頼っているからか、この地に受け継がれた何かを活かし足りないからか。沈滞はしていないが、未来に目を向けたい局面ではある。
そこをジャパネットが突破しようとしている。彼らが三菱重工幸町工場跡地(敷地約7万5000㎡)に事業提案し、誕生した「長崎スタジアムシティ」(安井建築設計事務所が設計に参画)。そのメニューであるサッカースタジアム・アリーナ・商業ゾーン・ホテル・オフィスビルは、新たなマグネットとなり、周辺エリアを活性化する。少し離れたJR長崎駅地区ともつながってゆく未来もある。このような民間主導の大仕掛けは、北広島の「北海道ボールパーFビレッジ(エスコンフィールドHOKKAIDO)」の成功と比較してみたくなる。北海道が開拓の志で新たな価値を生み出そうとしているのなら、長崎には異なるもの同士を結びなおす魂が受け継がれているのではないか。
2018年のスタジアムシティ・プロジェクトのプレス発表から6年、竣工式でジャパネット・ホールディングスの高田旭人社長は「現時点で全く不満がない」と、まずは手を打ち終えた感慨を述べている。ここから現代のテーマと長崎が結びついて動き出す。それを担う人材が活躍する基盤が整ったというところである。
*長崎県観光統計データ(平成21年~令和5年)