建築から学ぶこと

2025/05/07

No. 965

教皇がなしとげたこと―フランシスコから先へ

過日、教皇フランシスコが逝去した。すでに、世界各地の枢機卿たちが次の教皇を選ぶ「コンクラーベ」の段階に移っている。どうやら、近作の映画「教皇選挙」がガイダンスの役目を果たしているようで、日本でも少なからず関心を集めているようだ。もっとも、選挙は権力闘争ではなく、その時代にふさわしい人材に白羽の矢が当たってきたから、きっと見識に基づいた、しこりを残さない選択がなされるのであろう。
実際に、教皇はカトリック世界を束ねるだけでなく、世界に向けた重要な発言あるいは行動を起こしてきた。近代の激動の中にあって、1891年にはレオ13世による回勅「レールム・ノヴァルム」は、「資本主義の弊害と社会主義の幻想」について触れ、労働者の人権について踏み込んでいる。1962年から数年にわたってヨハネ23世が開始した「第2バチカン公会議」は大きな教会活動改革となり、プロテスタントや他宗教との対話、国際機関との連携が始まった。明らかに、世界のキリスト教の活動がこれを契機に穏やかに変わってきた。
ポーランド出身のヨハネパウロ2世は、火中の栗を拾うことを恐れない人だった。冷戦の終結期に自ら打開に出向くなど、現代史における重要な役割を演じた点は記憶に残る。2005年から8年、やや保守的なベネディクト16世が在位した後、バトンを受けたアルゼンチン出身のフランシスコは、自らの弱さを弁えながら社会的弱者に寄り添う、根が優しい人だった。とりわけ環境問題と人権問題に深く心を寄せ、2015年の回勅「ラウダート・シ」とそれに続く国連におけるスピーチは、特に前者において世論を動かす駆動的役割を果たしている。それ以降も、大国が時に横柄にふるまう流れの中にあって、フランシスコの静かな影響力は貴重であった。さて、バチカンは(いや、神は)誰にどのようなミッションを授けるだろうか。

佐野吉彦

世界は対等で、そしてつながっているー大阪・関西万博ドイツ館にて

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