2024/05/29
No. 919
都市にある価値ある建築を開き、価値を共有しようとする取り組みは、<生きた建築ミュージアム大阪>、<福岡建築ファウンデーション>といった息の長い組織が先行してきた。このところ連動して立ち上がった<京都モダン建築祭>(2022)と<神戸モダン建築祭>(2023)、そして本年5月25日と26日の週末に開催された<東京建築祭>もうまく人を集めている。これらは、よりオンラインの特性を活かしたスタイルと言えるだろうか。ポストコロナ時代ならではの仕掛けをしている。ざっくり言えば、開催情報告知も運営資金も、うまく回転させている取り組みである。
こうした取り組みの中で、世の中には建築を訪ねたい、そして奥に分け入りたいというニーズが潜在的に高いことが明らかになった。少なくとも建築を開くこと、巡り歩くことは観光の目玉にはなるだろう。インバウンド対応も手厚くできるとよい。しかし所有者にとっては、自分たちが今ある建築を維持活用することにどのようなメリットがあるのかがさらに重大関心事である。建築の経年変化に向き合いつつ、うまく公開することによって、時代が求める期待や趣向を嗅ぎ取ることはできる。そして、経済がつくらせた建築の未来はビジネスの算盤勘定に委ねられ、知恵と技術によって建築を生き永らえさせるに至るのである。語弊はあるが、シンプルに保存運動をする以上に建築を守る効果は得られたのではないか。
さて、<東京建築祭>には、1月から供用している、安井建築設計事務所の美土代町のオフィスも参加した。築58年のビルをリニューアルして生まれた交流空間には人があふれた。企業に快い変化が生まれるのはもちろん、建築を活かすことによって、街の日常が前向きに変化してゆくのではないか。