建築から学ぶこと

2025/01/22

No. 951

適切な「口出し」のすすめ

私たちは、自分の専門領域には詳しくても、ほかのことは知らないと思っている。それでも、車の運転も料理の味わい方も知っている。たとえ知識が生半可なものでも、そのことについて語ることはある程度できている。実は自覚しなくても他の領域に日常的に口出しをし、そのことでその専門領域のありかたに良い影響を与えているとは言えまいか。最近読んだ、藤垣裕子氏による「他の分野に口出しするということ」というコラム(*)の最後に次のような主張がある。
まず、今述べたような「現代の専門家に必要なこと、それは他の領域の問題に口出しができることであり、同時にそのような他の領域の専門家や所謂素人の口出しに耳を傾け、そこから新たな課題を見つけ出す柔軟性にある。」というくだりがあり、さらに「多様な知を結集するためには、異なる領域間の往復、専門知と素人の知との間の往復が必要となる。往復の技術を培うために、専門家のためのリベラルアーツがあり、これは現代の専門家に必須の技術であると考えられる。」とまとめている。
そうした口出しが求められるのは、技術的知見の複合、情報の統合が必須な災害対策、環境問題といったところが思い当たるが、行政や福祉といった分野でも、文理の垣根を越えた橋渡しが必要である。そして、そうした口出しあう空気は民主主義の基盤であるに違いない。それを盤石にするために重要なのは、ひとつには教育機関でのリベラルアーツ教育であり、もうひとつはコミュニティの集会における学びのなかでリテラシーの確保あるいはチューンナップを図ることである。どちらにおいても、専門領域外の話を聴く機会を設営すること。そして、それに対して生半可ながら質問を投げかけあって論点を確認しあい、領域が社会とつながる接点を確かなものにしたい。そこから社会に血が通ってゆく。

 

(*)「科学と社会を考える」第16回。白水社広報誌「白水社の本棚」2025年冬号。
藤垣氏は東大教授(科学技術社会論)。

佐野吉彦

そもそも、建築とは様々な領域の知恵を束ねるもの/大阪メトロ夢洲駅

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