建築から学ぶこと

2024/11/20

No. 943

ウィスキーづくりは人づくり

たまたまサントリーの白州蒸溜所山崎蒸溜所を同じ週に訪ねる機会があった。白州は昨年で開設50周年、それに先立つ山崎は今年で100周年である。どちらも水質に恵まれた点で共通するが、木津川・宇治川・桂川の三川が合流し、霧立ちのぼる山崎は、日本の歴史に静かに連なるイメージが宿る。材料調達には至便の地であるが、ここに集積した醸造に関わる知を、人文学的な魅力が柔らかく包む感がある。いまやシングルモルトウィスキーは、サントリーの山崎や白州、知多のように、製造する蒸溜所名を冠することによって、その価値が明瞭になっている。確かに、仕込・蒸溜・貯蔵・商品流通までのプロセスを経るウィスキーという商品は、ブランド価値を獲得するまで時間がかかる。100年はそう長いとは言えないのかもしれない。
1973年の白州蒸溜所が踏む生産プロセスも同じだが、静かな熟成に、蒸溜所が据えられた豊かな森の風景はよく符合する。山崎の成果を追いかけてきた白州は、トライアルを続けながら名実ともに日本最大の蒸溜所になっているが、自然に近く、冷涼な気候の白州は、これからの醸造の適切な指針を示すだろう。さて、両蒸溜所の建築については、1959年の山崎蒸溜所の製麦場(現・事務所棟)は、現代の効率的な工場建築のイメージに先立つ象徴性が際立ち(1910年のベーレンスによるAEG タービン工場の精神を受け継いでいる)、これが山崎建築の基調となった。白州は、醸造にも建築にも試行錯誤があったが、それらは環境建築の実現につながってゆく道であったようにも思われる。
ウィスキーづくりが少し先を見通して準備を進めることと並行して、山崎や白州の建築も時間のなかで必要な手が加えられてきた。ここには終わりはないのである。そして、関わりあう者のトライアルが、それぞれの次の世代を育てている。蒸溜所での安井建築設計事務所の歳月のなかにも、多くの学びと成長がある。

佐野吉彦

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