建築から学ぶこと

2024/06/12

No. 921

確実な未来へ―ワシントンDCにて

その博物館はナショナルモールに面し、すぐそこにはホワイトハウスがある。デイヴィット・アジャイが設計した「国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館」は、まさにアメリカの首都ワシントンDCの、そして歴史のキーストーンにある。堂々たる外観の政府機関や博物館群が取り巻く中で、光が透けるやわらかい外観が印象深い。その中に包まれるのは、アメリカにおける黒人をめぐる苦難の歴史と、もたらした豊かな文化の数々である。歴史については、リンカーンが奴隷制の廃止した以降の方が、黒人にとっての状況は苛烈である。19世紀末のアメリカには人種差別と移民排斥があり、そこにあった白人優位の思考や政策は、20世紀中盤まで抜き難いものであり続けた。

しかし今日もすべてが解決しているわけではない。そしてそれはアメリカに限った話ではないのである。現代も、人の尊厳をめぐっては直接的な加害もあれば、問題を先送りすることで事態の悪化を招いてしまう事例も多々ある。歴史展示から得る教訓とは、これから先の悲劇を防ぐために、いかに確実な一歩へと踏み出してゆくかである。さて、この街には、AIA(米国建築家協会)の大会に参加するために訪れた。今年会長を務めるキンバリー・ドウデルさんは、マイノリティの建築家のリーダーであり、女性会長でもあるが、社会との粘り強い対話を続けてゆこうとする意思がある。そこはずいぶんとしなやかな体質にAIAも変わってきているようであった。

さて博物館を出てみると、この日はPRIDEと名付けられたカラフルなパレードが目抜き通りを進んでゆく日である。次から次へと多様なグループが、それぞれの個性を際立てている風景は、現代から未来へと投げかけたメッセージに他ならない。これまでも、行進が歴史の節目をかたちづくってきたこの街でのパレードには重みを感じる。

 

佐野吉彦

PRIDE@ペンシルバニア・アヴェニュー

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