建築から学ぶこと

2024/05/14

No. 917

そこで学ぶことの可能性

 ミネルバ大学は2014年に開学した。サンフランシスコに本部があるが、大きなキャンパスはなく、20人の少人数編成をオンラインで結ぶスタイルを基本としている。汎用的な能力育成を基底に据え、1年だけはこの地にいて、徹底した議論のトレーニングを施した上で、2年目からは文理にわたる5コースから専攻を選択する。特徴的なのは、ここから卒業までの3年は、世界6か所それぞれを最低4月、最大1年ずつ滞在し、ローテーションしながら学ぶというスタイルである。現地での課題や経験を通してテーマを掘り下げてゆくプログラムはなかなか面白い。

 6か所とはロンドン・ベルリン・ハイデラバード・ソウル・台北・ブエノスアイレスだが、日本財団のサポートが実現して、2025年秋からは東京が加わって7か所に増えることになった。京都大学の松下佳代教授の報告によれば、日本を拠点にしてサステナビリティ分野の起業家を育てるプログラムを展開する構想もあるというから、さらに興味が尽きない(註*)。単に自由な発想を育むために多都市に滞在するだけではなさそうである。一方で、同大学は85%の学生が米国外から来ているため、東京の課題に向きあって世界のさまざまな若者が深掘りした議論をしているというのは、学術的にも意義があるのではないか。日本の若者と交流や議論ができるとそれぞれにとって効果がある。

 それにしても、政治を中心にして世界がコミュニケーションをうまく取れなくなっている現状は嘆かわしい。もちろん対話の出発点に価値観の違いがあるのは認めてもよいが、カウンターパートが属する場所の空気を感じとることができる想像力と実体験があれば、それは適切な結論と連携を見出す起動力となるだろう。ミネルバ大学の方法論は唯一の選択肢ではないとしても、日本の教育のありかたへの刺激にはなる。

 

*日経新聞2024.5.6

 

佐野吉彦

万博は、世界を結ぶ力になるか?

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。