建築から学ぶこと

2024/12/18

No. 947

倫理教育について考える

医療分野においては、倫理綱領として「ヒポクラテスの誓い」が広く知られている。もちろん医療内容はギリシア時代から大きく進歩した一方で、権力に加担した歴史がなかったわけではない。そうした反省は法律の整備につながってゆくのだが、それに先立って近代が始まる時期に自発的に古い箴言を位置付けたところは素晴らしい。つまり、法律が専門家に制約を与えるのではなく、専門家たる者は、倫理における自助努力をしていることを宣言するのは、さすが歴史を積み重ねた職能である。

建築設計も医療と同じくらい長い歩みがある。こちらはローマ時代のヴィトルヴィウスが定義した「用・強・美」を建築の基本的な原理との趣旨から引用が続いている。建築は人を安全に守るだけではなく、精神的基盤であり、社会の課題は建築を通して解決すべきという含意がある。したがって建築設計者には時に相反する要求事項を無理なくまとめあげる技量と指導力、継続的修練が求められる。そのようなところに確実に職業倫理の根幹があると理解している。日本では姉歯事件を受けて建築士法改正があり、法の縛りが強くなったが、医療と同じように倫理における自助努力の視点は備えていた。それなら今後の社会のために連携するのはどうか。

ところで最近、2つの大学のトップに倫理教育をどう施しているのか聞く機会があった。ある宗教系大学は、教養課程で倫理教育を必須としているという。宗教が開学の基盤にあるところは、こうして独自の価値を活かしやすい。もうひとつの非宗教系大学ではリベラルアーツを重視しているものの、倫理教育のプログラミングは難しいと感じている。それはそれで正直な答で、法律を守らせるために全学に一般論的な倫理学習を促すのなら、効果は薄いかもしれない。

佐野吉彦

技を活かす光/光を活かす技

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