建築から学ぶこと

2024/12/11

No. 946

さて、先を展望しよう

第933回では新たな集客拠点「長崎スタジアムシティ」に触れた。長崎での近年の一連の仕事は、それにさかのぼる、膜屋根を伴った「長崎駅舎(在来線・新幹線)」の設計から、今月竣工した「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」に至るまで、どれも長崎の新境地に関わる機会だったことが感慨深い。ちなみに、南山手の景観地区に誕生したこの高級ホテルの本館は、126年を迎える旧修道院施設(のちに福祉施設)の改修が中心であり、穏やかに腰を下ろす場所としての長崎らしい良さを引き継いでゆく試みでもある。ここに登場する事業者の視点が多様なのは興味深いが、今後のまちへの波及の仕方も異なるだろう。都市が変化するときのベースには、それぞれに自発性な挑戦がある。

今年の地方における胎動としては、半導体に関連してのTSMCやラピダスの積極的な設備投資意欲が目を惹いた。本当に着目すべきは、こうした製造拠点誕生に始まる新たな動きが多彩な雇用を生み出し、さらに新規事業の創出につながるかどうかである。一方で、麻布台ヒルズやグラングリーン大阪といった都心の大プロジェクトは、計画技術として成熟している姿は眩しいが、こちらもその布石が先のムーブメントを誘い出すかどうかを見守ってゆきたいものである。

さて、前回述べた今年の政治の波乱は、結局12月半ばに至っても世界中で続いた。政治のリーダーシップの質が問われた一年だったが、企業経営についてはコンプライアンス意識が広く浸透してきた一方、不正事例が多発する企業の割合が高まっていると言われる(デロイト・トーマツ「企業の不正リスク調査白書2024-2026」より)。思い切った手を打つ胆力はあっても着実な実行力を欠いているということなのか。2025年のリーダーには、先を展望する眼と実行する勇気の両方が問われる。

佐野吉彦

新しい景色、新しい動き/長崎スタジアムシティ

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