建築から学ぶこと

2024/06/26

No. 923

「琵琶湖周航の歌」を賛えて

滋賀県に住む人は、石山の秋月、瀬田の夕照と続く「近江八景」が頭に入っているらしいと聞いたことがある。それを知って私も当地での挨拶でよどみなく言えるよう用意したものだ。たしかに、朝な夕な目にする琵琶湖をめぐる風景の美しさは、繰り返し口に出す価値がある。

近江八景のメッセージと共振するところがあるのが「琵琶湖周航の歌」(1917)で、旧制三高に始まる京大ボート部の歌として広く知られている。この歌で思い出すのは、京大在学中にボート部に在籍し、のちに京阪電鉄のトップから大阪商工会議所会頭を務めた故・佐藤茂雄(しげたか)さんのことである。佐藤さんは自らの大切な歌であるこの曲について、相楽利満(さらりまん)のペンネームで「琵琶湖周航の歌の世界」を出版して追究している。若き日の佐藤さんは、この歌が当時三高の学生だった、諏訪湖畔に生まれた小口太郎(おぐちたろう)の作詞であることは納得できていたようだが、この格調高いメロディを誰が手掛けたかはずっと引っ掛かっていた。そして、そこには「ひつじぐさ」という元歌があり、作曲者は新潟在住の吉田千秋という人だったとの解明がなされている。つまり、小口も吉田も琵琶湖でない風景を思い浮かべていたというわけであった。

しかし、佐藤さんの関心はここで尽きずに、「ひつじぐさ」は、本当は吉田千秋オリジナルではなく、さらに元歌があるのではと指摘している。かつてはそのような「借り受け」は珍しくなく、「故郷の空」や「雪山賛歌」、同じくボートを題材とした名曲「真白き富士の嶺」と同様に、海の向こうからやってきた可能性を指摘している。そうなると吉田千秋は偉大なる発見者と言えるだろうか。佐藤さんは、元歌は欧州由来の讃美歌ではないかと考察しているが、そこにあった「清らかさ」が受け継がれたのだとしたら、とてもうまくフィットしたことになる。

佐野吉彦

夕照の瀬田、いまは梅雨

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