建築から学ぶこと

2024/10/23

No. 939

熟議のための場所

今年は、国際会議が元のようなかたちで再開した年であった。世界情勢が多くの課題を抱える中で、対面によって熟議するのは望ましい。ここ数年、オンラインでよく乗り越えてきたというべきか、やはり乗り越えられなかったというべきなのか。そして、ますます対立が広がっている。先日欧州に向かう機上に、NATOとそれに続けてのG7の会合に向かう政府高官が乗っていた。テーマは防衛問題で、欧州各地において、会議と2国間の個別協議を通じて踏み込んだ議論を交わしたのではと想像する。私はその場に立ち会いたいとは思わないけれども、少なからず切迫感はあるようだ。
一方で、10月初めにはジュネーブでは国連主管のもと世界市長フォーラムが開かれている。それぞれの自治体は環境や経済問題はじめ異なる課題を抱えるが、その単位どうしで方向性を共有するのは有効だろう。日本からも参加があったという。また、基調講演には建築家ノーマン・フォスターが登場したようだ。その中で、過半の構成単位が民主的な体制下にはないというのは注目に値する。社会課題解決には政治と、自発性のある民間、主体性のあるアカデミアの適切な連携が必要だから、その点では気になるとろである。
ところで、今回の渡航の目的地は私にはおなじみのドイツ・ハイデルベルク市である。そこでの会議で、世界市長フォーラムにも参加した同市のウュルツナー市長は、民主主義的な合意形成プロセス、多くの知恵を集める重要性を強く語っていた。その会議は、新たにできたコンベンションセンターでの開催で行われ、これは1000人規模のサイズの大会が同時に2本できるという構成であった。その設計は、合理的な解決を目指した設計というより、お互いの会議の存在を感じさせる工夫(余剰のある提案)が見どころである。異なる専門性の出会い、運営主体相互の交流を促していると見た。建築が果たす役割はいろいろありそうである。

佐野吉彦

黄昏のハイデルベルク

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