建築から学ぶこと

2025/03/12

No. 958

台北での学び

久しぶりの台北で、2020年に開館した「国立台湾博物館・鉄道部園区」を訪れた。場所は台北駅に近く、日本統治時代の1918年ごろに整備され、近年に至るまでずっと鉄道の本局として使われてきた建築群である。メインは鉄道の歴史と現在を扱うもので、そこに併走する台湾の産業興隆史を読み取ることができる。興味深いのは信号装置、単線運転で使うタブレットなどの展示で、日本の鉄道が構築してきたシステムとほぼ共通している。台湾の新幹線にも日本の技術が受け継がれているから、東アジアに生まれた知恵として、韓国などの他国も含めて比較研究や開発連携が今後も進むとよいだろう。鉄道をはじめとする交通システムの維持と改善は世界あまねく気に掛けるところだから、ともに提言するのも有用と考える。ところで、この建築群には戦時作戦指揮センターという堅牢な建築が含まれており、これも戦前戦後を通じて活用された。ここでも、穏やかな台湾にある困難な歴史の一端が垣間見えるのは興味深かった。
さて安井建築設計事務所が、この10年ほどで当地の建築設計を手がけてきたなかで、台北日本人学校は今春、3度目の卒業式を迎えることになった。優秀な子弟たちと、意欲的な教師たちが、施設を使いこなしている様子を見るのはワクワクする。ここで、日本の指導要領をふまえつつ、小学校から中国語も学ぶのだが。訪れたおりは学期末近くで、中学生の数学の授業で教師がジョン・ナッシュ(数学者。その実話を扱う映画「ビューティフル・マインド」の主人公)に言及していたところだった。教えているのは図書館の一隅。このあと、図書館にある教材との関連付けが続くのだろう。少し離れたルームではボーヴォアールを取り上げていたが、どの教科だったのか。こうしたところから、子供たちの眼差しは世界に向く。何かと何かを掛け合わせることの刺激は人を成長させる。そして、それを支える建築にも血が通う。

佐野吉彦

台湾鐡道が使っていたタブレット。日本と同じだ

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