建築から学ぶこと

2024/06/05

No. 920

そこで変わるか変えないか-建築が持つ可能性

 良く知られた話だが、鉄道がこの世に生まれてから、人は共通の時刻を意識するようになったという。そして、目指す場所に、目標とする時間に着けるよう計画することができるようになった。また、郵便システムが確立したことによって、遠隔地との交信が確実になった。安定した照明が登場したことで、夜は生活に使える時間帯に変わった。近代に生まれた様々な技術は、人の行動と眼差しを一挙に拡大したのである。エントロピーが増大しすぎるきらいはあったが、この変化のなかで人々は効率的に物事を処理する術を磨いていった。そうして、20世紀初頭のアメリカに現れたT型フォードの生産システムや労務管理理論であるテーラー・システムは、汎用性のある商品を生み出すにはうってつけだった。近現代建築における、合目的性の高いオフィスや生産施設、教育施設も、ここにある方法論をより明瞭に展開する力となっていった。
 一方で近代以前の工房、日本の寺子屋、アメリカ合衆国草創期のタウンミーティングにあった親密な対話を、人々は忘れていなかったようである。やがて人が長い時間を過ごす場所はすべて、ヒューマンで自発的な要素を取り戻すようにゆるやかに変化を始める。それは後戻りではなく、情報技術が変化を加速させた可能性がある。それはコロナ流行期に織り込みが進んだのではないか。結果的には、建築計画理論も根底から問い直されてきていると感じる。
 こうした建築空間の変化が、組織が自らの風土を組み立てなおそうとする動きとリンクするのは理解できる。一方で、組織が受け継いできた価値観を目に見えるかたちで保持したいとするベクトルもある。そのどちらを重視するかは、経営者の時代を見抜く眼、そして設計者の想像力にも委ねられるのだろう。このせめぎあいのなかでいろいろな建築の解が生まれれば、未来の可能性もさらに広がる、ということになる。

 

 

佐野吉彦

建築は社会にフレームを与えるー市政会館から望む日比谷

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