建築から学ぶこと

2024/07/10

No. 925

小さな場に宿るもの

先日ワシントンDCを訪れたおりに、ジョージタウン大学を訪問した。お膝元のジョージタウンの街は、堂々たる構えの建築が目立つDC中心部からクリークを挟んだ西に位置している。レンガの外壁が続く街並みは美しく、キャンパスもこの風景に自然に接続している。来訪者はまず、東向き正面の大きなヒーリー・ホール(1879)の厳かな表情に印象付けられる。だが、それはキャンパスの真の象徴ではないらしい。その裏手には古参のオールド・ノース・ホール(1795)があり、その南側の小聖堂(1893)とで囲われる小さな広場に向かって、多くの大統領が訪ね、演説してきた。まさにその歴史がこの場にかけがえなさと磁力を与えている。その静かな風情は津田塾大学小平キャンパスの津田梅子墓所、同志社今出川キャンパスにある詩碑と通じるものがある。

一方で、龍谷大学の瀬田キャンパス(滋賀)にある樹心館は建築として磁力がある。もともと大阪南警察署として建てられ(1885)、その後京都へ移築されて西本願寺社務所や龍谷大学図書館として使われたのち、瀬田キャンパス開設後に象徴的存在として移された(1994)。小ぶりで和洋折衷、プロポーションの良い建築であるが、キャンパス内では孤高の風情があった。今般、木造のフォリー、すなわち現代における和洋折衷というべき仕掛けが傍に寄り添うことによって、キャンパスにしっとりと根を下ろした表情に変わっている。

じつは浄土真宗である龍谷大学の起源は1639年、カトリックが開いたジョージタウン大学の起源は1639年で、歴史は同時並行している。宗派宗教は異なっても、同じように「小さな場」を大切にしているのが興味深い。新たな方策を打ち出す教育施設にこそ、このような「小さな場」に理念を語らせるのは有効ではないだろうか。

 

 

佐野吉彦

樹心館の現在

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