建築から学ぶこと

2025/01/15

No. 950

リスクを見通すなかで

1月6日の週は、いろいろな年始の場でリーダーたちの式辞に触れた。大阪関西万博については全国でも前向きの話題になっているが、そのほかの言及は端々に抑制感がある。何せ取り上げる話題は物価上昇、環境問題、戦争、そしてトランプ大統領。AIを含めて、どうにもこうした変動要素の視界がクリアでないのである(ただし、賃金上昇については力強く語られていた)。という次第で、難しい課題に向き合わざるを得ない以上、リーダーたちはいかにリスクを減らすかに知恵を使い始めている。
そうしているうちに、米国ロサンゼルス近郊丘陵地の山火事が大きく広がった。カリフォルニア州を中心に頻発する山火事と異なるのは、原因が共通していても、緑豊かな住宅地に影響が及んだことだった。その点ではマウイ島ラハイナを襲った火砕流に起因する大火(2023)と似ている。どちらも、平時から自然に起因するリスクが宿る認識と、消火や避難など非常時にエリアを守りぬく策を欠いていた。誰もが事前にリスクを等閑視していたのではなかったか。
強風が人口密集地を襲う型の火事としては、日本では酒田大火(1976)と糸魚川大火(2016)の両大火の事例がある。複合的な原因がある都市型火災ではシカゴ大火(1871)や江戸を焼き尽くした明暦の大火(1657)がある。それぞれの都市は建築の耐火性に力を入れたり、基幹道路や空地の整備に力を入れたりした(江戸は広小路、火除け土手などの火除け地を設けた)。将来のリスクマネジメントあるいは都市防災計画の実践がその後に続いたわけである。今回の被害地パシフィック・パリセーズの価値を維持しようとするなら、単純な住宅再建ではない復興を期待したい。
こう眺めてくると、今年はリスクをマネジメントする緊急性がありそうだが、そこに長期的視点を持つ必要はある。それこそが今年のテーマなのであろう。

佐野吉彦

30年目の神戸

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