建築から学ぶこと

2025/02/26

No. 956

芸術とデザインを育てよう、ここで

京都市立芸術大学は、2023年にキャンパスをJR京都駅前近傍に移転した。このエリア交通至便の地ながら、整備が取り残されていた。それを解決する当事者の京都市が芸術系大学という「やわらかいピース」を持っていたことは幸いであった。商業地でもオフィス街でもなくてよかった。公開コンペで建築設計者が選ばれ、当該エリアの歴史とうまく向きあう形で整備ができたことは評価してよいだろう。

 

このキャンパスは「テラスのような大学」を標榜している。形態として、自由に出入りできるキャンパスの広い外部空間は、縁側や鴨川の川床のようである。ミュージアムやホールは、この大学の「豊かなコンテンツ」を社会や地域に開き、相互反応を導く場所であり、これも含めてテラスと見立てることが可能である。この大学は専門性としては開きやすさを備えていたのだが、少し離れた西山の裾にあったこれまでの沓掛キャンパスだけでは十分ではなく、一時的に四条堀川にミュージアムを設けていた。一方で、閉鎖性を持ちやすい専門分野相互が、お互いに開きあって触発されることをこの大学の教育は目指してきた。それに対してもテラスは効果をもたらす。長年の取組みをさらに前に進めるには駅前移転は大学にとってまたとないチャンスとなったのである。

 

わたしはそのような動きを見て、芸術分野の発展を心から願うのだが、政府も財界もデジタル教育の充実を謳い、日本が研究開発で生き残ることを目指している。それ自体は間違いではないが、STEM教育だけでは十分でないと気づき、STEAM教育を掲げ始めてから、芸術やデザインの発想がイノベーションには必要である。と考えるようになってきた。それも悪くないが、芸術やデザインには活用価値があると言っているだけで、特にそれらの分野の育成とイコールではない。むしろ即効性など求めず、芸術とデザインは大事だとして、教育の自立を応援してくれた方が、結局は社会と日本のクオリティを高めることにつながるのではないか。

 

 

註:本稿は、京都市立芸術大学・赤松玉女学長の講演(2025.2.20関西経済同友会)をふまえている。

佐野吉彦

新幹線から見える、京都市立芸術大学キャンパス

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