建築から学ぶこと

2017/07/12

No. 581

カーディフの取り組みに学ぶ

カーディフ(英・ウェールズ首都)に「チャプター・アーツ・センター」という活動体がある。1968年に3人のアーティストが集まり、1971年から正式に旗揚げし、多くの新しい形態のアートを支えてきた。戦後初期に設立されたアーツカウンシル・オブ・グレートブリテンが伝統的なアートに眼が向いていたため、センターは異なる視点からの問題提起であったようである。長らく旧・高校校舎を本拠としてきたが、ここを2009年にAsh Sakula Architectsの設計で大改築した。現在の来場者は年間約80万人で、収入の60%弱を民間調達で賄う、自立した組織として運営を続けている。
創設者のひとりクリスティン・キンゼイは「あらゆる分野の表現者が、ひとつ屋根の下で制作を行う。そのことが分野間の垣根をなくし、コミュニケーションを促し、寛容さと協調的な雰囲気の中で想像力が開花する」と述べている。まず、目指す姿のひとつはアーティストを刺激し触発する場である。ハンナ・ファース(現在のセンターのディレクター)による「オーディエンスにもっとリスクを取って、想像できない、理解できないかもしれない作品に出会ってもらうことがチャプターの挑戦」という言葉にあるように、地域の文化力を高める場を目指すことも、明瞭に謳っている。
結果的に芸術と地域は共生することに成功した。その要因は、センターにあるカフェやバーのような、アートとは直接かかわらない空間(収益を得る部分)が起こす「人が出会うきっかけ」である。収益を得るためにもそれらは設けられているのだが、ひとつ屋根の下にアートスペースと交流空間が重なりあうことも効果はありそうだ。
なお、以上は「取手アートプロジェクト」(以下TAP。茨城県)の広報誌「あしたの郊外」第3号に掲載された記事を参考にしている。TAPは1999年のスタート以来、多様な活動を続けており、同じような活動に影響を及ぼしてきた。TAPのみならず日本のアーツセンターの今後に、カーディフの取り組みが参考になるのは、つねに少し先を見通す視野が良好ということか。もちろん、うまく人の力を活用する知恵があるところも。

佐野吉彦

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