建築から学ぶこと

2025/07/16

No. 975

鉄道と音楽

鉄道をテーマとした音楽はいろいろある。「A列車で行こう」(Take the ‘A’Train)、・「フニクリ・フニクラ」・「鉄道唱歌」のような快適なものもあり、「津軽海峡冬景色」のように、長距離列車に揺られる長い時間に抒情を重ねたものもある。もっとも、それらはある時代には<現在性>を有していたが、今では「ある時代の空気の記録」という見られ方をしているのではないか。
そもそも、鉄道とは、スピードと、安定した運行システム(時間と運用を明らかにするダイヤグラム)で成り立っている。まず、鉄道が都市の風景に忽然と現れた時期は、従来のイマジネーションを越える姿に輝く未来を感じただろう。アルテュール・オネゲル(1892-1955)の「交響的運動:パシフィック231」は客車を牽引する蒸気機関車(先軸2+動輪3+後軸1)から、描写ではない音楽を導き出した。同じように、クロード・モネ(1840-1926)はサン・ラザール駅を出入りする蒸気機関車に、新たに考案した画材や方法を適用することにした。アントニオ・サンテリア(1888-1916)は、そうした新しい疾走感から都市の建築像を先取りしている。鉄道のスピードは多くの人たちに視点の転換を促す起爆剤だったと言える。
また鉄道は、時間と物流をコントロールする知恵を生む契機となった。その視点は経営管理や工業生産はじめ、多くの分野でのシステム思考へと育っていった。その点では鉄道のシステムは偉大な発明にちがいない。もしかしたら、この視点は、近現代の音楽、またスクリーンミュージックのなかにも流れ込んでいるのではないか。以前、作曲家・湯浅譲二(1929-2024)の手書きの楽譜を展示した「作品展」を見たときに、その美しさの中に、丁寧に書き込まれた鉄道ダイヤを感じた。これは様々な音の重ね合わせを無理なく達成する知恵。じつは鉄道には合理性以上に美しさが内在しているのだ。

佐野吉彦

鈴木優人がプロデュースしたコンサート「鉄道×音楽」(調布音楽祭6.28)に出演した上野耕平(サックス)が出展したNゲージ。

アーカイブ

2025年

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。