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建築から学ぶこと

2025/08/20

No. 979

デザインはどのように人の心を動かすか

大阪・関西万博の建築では、新しい切り口で訪問者の心を惹きつけるものが人気を集めている。本来は、建築とは刹那的なものではなく、時間をかけて訪れる人に心地の良い時間を提供してほしいものである。恒久施設ではあるが、ザハ・ハディドが設計した、東大門デザインプラザ(ソウル、2014)はそのいい例である。その胎内的な空間をゆっくりくぐりぬけていると、幾何学的な、あるいは座標を歪めたような造形に、この街のいろいろな光が乱反射して、不思議な感覚を味わうことができる。
そもそも、デザインの勘所とは、隅々までデザインを究めることは重要には違いないが、それとともに、建築を経験する時間を巧みにデザインする観点も必要である。たとえば大小のタイルを取り合わせた床の細やかなデザインは見た目以上に、人が歩きながら足を通じて心地よさやリズムを感じるものだし、一級の和菓子は、味だけでなく、包み紙と、それを開く時間を含めてデザインしているのではないか。良いデザインとは人の心をゆっくり動かし、知らぬ間に人をたぶらかすものかもしれない。
さて、現代の都市を歩いてみると、建築や土木における優れたデザインの遺産をいくつも見ることができる。こうしたものは、そのデザインが生まれた時の企業理念や、都市戦略を物語るものだから、今の時点で再評価しておくことは社会に対する責任ではないかと考えている。でも、工夫はある程度必要だろう。大阪の例を挙げれば、堂島大橋(1927)は、ライトアップを加えることで橋のデザインの広がりを水面まで拡張してみたものである。村野藤吾が先駆的にデザインした梅田吸気塔(1963)は、光をなまめかしく添わせると素敵な感じになっている。こうして先人のデザインの価値を別のデザイナーが上手に引き出すことによって、都市はいい感じの大人になってゆくのではないか。

佐野吉彦

ひもかがみ(群馬の寒天干菓子)

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