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建築から学ぶこと

2025/10/15

No. 987

イマジネーションとネットワーク ―今年のノーベル賞から

研究者にとって、時間をかけて自分のテーマを追い続けることは重要に違いない。一方で、同じあるいは隣接する分野の研究者とのネットワーキングはそれ以上に意義がある。そこで鋭い批評を受け、新たな視点を獲得し、そして同じ志を持つ研究者、協働者を見出すことができるからだ。そのダイナミクスがあることで、一見目立たないテーマが社会を動かすに至るわけである。
昨年のノーベル賞はAIに関連する先進性が目立った印象があったが、今年は学問の基礎に関わるものが目につくと言えるだろうか。坂口志文教授ほか2名が受賞した生理学賞・医学賞は「免疫が制御される仕組みの発見」というもので、免疫学研究の積み上げの厚みを感じさせた。化学賞の北川進教授ほか2名は金属有機構造体を解析するもので、多孔性材料にもつながるという。実際に北川教授はここへのCO2吸着の可能性について企業と共同研究の実績があるので、どこか工学的な研究のようにも感じた。こうしてみると、両賞の功績は、テーマ追究の好事例だけでなく、ネットワーキングの成功例とも理解できる。
学問の基礎確立という点では、物理学賞のクラーク教授ほか2名が、量子のふるまいを究明し量子コンピュータの基礎技術につなげた。経済学賞のモキイア教授ほか2名は技術革新が経済を成長させるメカニズムを明らかにしたが、これからの学術研究の背中を押すメッセージになるかもしれない。
文学賞を受賞したハンガリー人のクラスナホルカイ氏については語るべき資料が手元に少ないのだが、大阪・関西万博でハンガリー・チェコ・ポーランドらの中欧(元東欧ではあるが)の展示に骨があったことを想起する。中欧はそれぞれしぶとい言語感覚を持ちつつ、社会、そして大国の矛盾に冷静に接する文化基盤を持っているゾーンなのである(パビリオン建築も総じて好印象)。平和賞はベネズエラの政治家マチャド氏で、民主主義の基盤が揺らぐ現代にあって、アクションの背骨はぶれない。この2人もまた、自分が見出したテーマを追い続け、他者と共振しながら未来図を描いている。

佐野吉彦

万博会場大気のCO2吸着貯留システム(地球環境産業技術研究機構)。社会を動かす力となる。

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