建築から学ぶこと

2025/09/03

No. 981

始原を問い直す音楽

ジョルジュ・アペルギス(1945-)の作品を扱った2つの演奏会に出かけた(サントリーホール・サマーフェスティバル@サントリーホール)。私はこの現役作曲家のことはよく知らなかったので、大編成による管弦楽作品の日では作風の目指すところがうまく把握できなかった。本質を知ることができたのが「声」を中心としたプログラムの日だった。ひとりの女声による演奏「レスタシオン」は、作曲家・細川俊夫のプログラム解説を引用すれば)、「人の発音行為にがんじがらめに入り込んだ慣習を解体し、新しく再構築される現場に立ち会う」手ごたえを感じるものだった。連続する14曲は色彩的である。音楽による表現をまといながら、人のありよう、可能性を問い直すものであったとも言えるだろう。演奏時間は40分くらいだったか。楽譜には細かい音符があるわけではないから、読解力と表現力の両方が必須である。

歌手ドナシエンヌ・ミシェル=ダンサクが演奏後に語っていたように、まず、作曲家が示したテキストを深く読むプロセスをしっかり踏む。作曲家は演奏者に課題への応答を求めているのだが、彼女は自らの身体の状態(可能性)をふまえ見極めながら準備をし、本番では自由にふるまうのである。じつに真摯な、普遍性のあるチャレンジを私は目撃できたというわけである。

私には、1978年のこの曲の中身を正しく分析する力はないが、同じく女声が自由なふるまいをするキャシー・バーベリアン「ストリプソディ」を思い浮かべていた。それは1966年の作品だったから、この形式は同時代の様々な分野の影響を受けながらより自由に、より緻密になっているのではと考える。今回は、明らかに会場の空間と空気からもフィードバックを受けているから、作曲家も演奏者も、場の力と深く交わる感覚はより研ぎ澄まされている。

佐野吉彦

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