建築から学ぶこと

2025/08/27

No. 980

生態系から生まれる奇跡

豊かな森は生態系の中心にあり、多様な生物に水や栄養を配給する。生態系には、このような「供給サービス」に加えて「(気候などの)調整サービス」・「文化的サービス」・「基盤サービス」といった働きかけを包括した、<生態系サービス>(Ecosystem Services)を有しているとの定義がある。日本語のサービスという語感では、生態系が人間に奉仕するように聞こえてしまうので、生態系を大切にすることによってもたらされるもの、と説明したほうが良いかもしれない。生態系とは循環性のあるものだから、部分の棄損はシステム維持に影響する。すなわち、好ましいサービスをもたらすには日常的な維持プロセスが大事との含意があるはずだから。
そこで、ワインを例に挙げて考えよう。もちろん、美味しいワインを生み出すための基盤は良い葡萄畠であることは間違いない。そこには適切な土壌と気候があり、その風土にフィットした葡萄があり、専門家が加わって穏やかな生態系が生み出される。ワイン畠で面白いのは、それら諸条件がプロセスに十分な寄与をした上に、幸運が重なることによって、予想を越える成果(味わい)が生まれるところである。とりわけ収穫から発酵や熟成へと手順を踏むワインづくりには、どこかにときめく瞬間が潜んでいるに違いない。そう考えると生態系とは、日々変わらぬ地味な世界などではなく、あちこちで奇跡がうまれる素敵な場なのではないか。この畠は、結果として優れたワインを生み出すに留まらず、見事な詩を生み出すことさえあるだろう(宗教にも例として使われる)。
うまく育て上げられたシステムからは、人間がいま考える合理的回答を凌ぐ解が生まれる。よくできた建築が、求められる機能を整えるだけでなく、時代を動かす奇跡をもたらす場であるように。

佐野吉彦

奇跡のワインたち

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