2025/09/17
No. 983
大阪・関西万博の大屋根リングはこの万博の象徴であり、道標であり続けた。内径は615m、歩行路幅が30mで全周が2kmあるリング。パビリオン群はそれにおおよそ内包されつつ、自然にリングからあふれ出した趣向の会場プランである。ここでは、リングの内外を明瞭に仕切らないところが成功している。そして、そこには領域を越えて開くことの重要性を伝えるメッセージが宿っている。リングは、閉幕後には一部を残して消滅してしまうものの、今後もこの万博の意義を伝える存在として記憶に残るだろう。加えて、大型木造建築として知恵を蓄積したことで、この分野の技術の成長にも寄与した。なお、一連のプロセスにおいて、建築家・藤本壮介の功績は評価できる。
さて、こうした新たなエリアを整理するために、幾何学を当てはめる手法には普遍性がある。大屋根リングは、ある面で古典的手法を用いたと言える。他の例でいえば、第977回で紹介した、詩人を魅了した「円(まろ)き広場」である大連の中山広場は、単独で見れば大型の円形で縁どられるものである。一方で、大連の街区計画には、このような円形広場を要所に置きながらゾーンを拡げてゆくビジョンがあり、もともとロシアが西洋的なスタイルとして構想し、日本が整備し、中国がこの原理をさらに拡大した。その中で都市計画の思想のバトンがしっかりと受け継がれている。
もちろん博覧会会場デザインと大型市街地開発計画とは、同列に論じにくい面もある。しかし、都市における新たなアクションには、幾何学を援用しながら確かな思想を盛り込むデザインワークの必要が共通してあるのではないか。データセンター、高度科学技術研究施設、宇宙関連施設などの登場を眺めると、そこに建築設計者の発想力と決断力が期待される余地はまだまだありそうに感じる。
暮れゆく、9月のリング