2026/02/04
No. 1002
図というものには、まず、事実とその関係性を整理する目的で書かれる側面がある。当然、図を上手にまとめることに比例して理解力は高まる。たとえば、化学で登場するベンゼン環を使えばわかりやすく世界が読み解ける。この「環」はその安定性と展開の可能性を同時に示しているのが面白く、また美しいと思う。
一方でそれを見て行動を起こすための手引きとなる側面もある。建築図面はすべてこちらで、設計図は設計者が創案した建築の姿や価値を明瞭に提示するものであり、施工者はそれを読み解いて建設作業に着手する。図面をまとめるために設計者は構想力を発揮し、優秀な施工者は図面からリスクを想定しながら建築を実現する手順を整える。図面は誰にとっても誤解がないように書かれているが、それぞれ使う力は異なっていると言える。
同じように、手引きの一部である楽譜には作曲家の構想が示されており、演奏者はそれを読んで身体を通じて表現する。正確には、読むというより、身体を介してすみやかに音に変換する作業を瞬間的に行うわけである。場合によっては、結果としての音を導くために、楽譜にはすべてが綿密に表記されていることもあれば、演奏者の自由度に委ねるために記述が省略されたりする。コード進行だけを決めるとか、五線譜ではなく図形楽譜が用意されるときもある。この場合は楽譜の両側に想像力が対峙しているというべきか。
いずれにしても、質の高い成果はよく整えられた図面や楽譜が基盤となる。では、鉄道の運行管理に使われるダイヤはどうだろう。距離を縦軸、時間経過を横軸に取って記載すると、列車の速度や駅での待避、車両や要員の手配が一目瞭然になる。これは業務効率化を目的としながら、図面や楽譜に劣らず、表現としても美しい。実際には遅延が発生するとダイヤを組み替える必要が生じるので、ここで運営者が問われるのは、状況対応力なのではないか。あれこれ考えながら図を見るのは楽しい。
ダイヤは緻密で美しい