2026/03/25
No. 1009
東京藝術大学の音楽環境創造科は2002年に同学・取手キャンパスで設立された。音楽学部に属しながら造形やアートマネジメントなどの分野で目覚ましく活躍する人材を輩出している。この異色の学科を創設当初から率いてきたのが熊倉純子教授で、その退官記念企画が、現在の拠点北千住キャンパスで開催された。前半が初期の卒業生たちによるトークで、まさにこの学科が目指してきた「芸術と社会の共創」のスピリットを分有する人たちだ。未成の彼らを入学時から大人扱いする学風は素晴らしい。
後半は熊倉さんによる講義である。熊倉さんと私は取手アートプロジェクト(TAP、1999年活動開始)の活動で協働してきた。私はTAPが公・民・アート・学・農などのアクターを繋いできた活動を重要な視点と感じ、そこから多様な知見を得てきた。専門家は荒地に向きあってどのようにふるまい、種を蒔くのかについて。もちろん熊倉さん自身はTAPに限らず北千住や谷中などでの活動を続けながら、この学科を基盤にして社会におけるアートの役割について考えを深め、人を育ててきた。
地域コミュニティのアクターたちにはそれぞれの経験知や専門知がある。それを活かし、どう結び、花開かせるか。それぞれが異なる声を発する状況のままで、ひとつの魅力的な響きを生み出せないか。そのときに<芸術領域>は<制度化された領域>に対して働きかけ、分け入り、新たな光を当てる使命あるいは特性がある。芸術はコミュニティを揺さぶりながら人の心を動かすことができる。一方で、結びあう試みをうまくマネジメントするための能力は重要であり、それを継続する知恵も必要である。熊倉さんの言葉を借りればその場には<あわい>であり<なぎさ>といったしなやかなイメージがふさわしいかもしれない。熊倉さんの活躍を期待しつつ、今後もこの学科からアートマネジメント・コミュニティマネジメントの巧者だけでなく、想像力豊かな開拓者を輩出することを期待する。
動いた、語った、育んだ熊倉さん